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1 | 分散投資2.0

はじめに 以下は、「分散投資」に対するSUSTENの考え方について、厳密性をやや犠牲にしながら、直感的にご理解いただけるよう概説したものです。 分散投資1.0 1940年代以前、リスクを数字で評価するという発想が無かった人々は、目に見えるリターン、つまり「利回り」にばかり着目して投資をしていました。クーポン利回りが3%の債券と配当利回り7%の株式があれば、表面的なリターンが高そうな株式を選択し、利回り3%の債券は魅力に欠けます。もちろん、資金回収が不能になるリスクや事業のリスクを漠然と評価することはありましたが、合理的な評価手法や理論的考察が発達していた訳ではありません。とにかくリターンを最大化するのが目的である場合、投資行動にリスクの要素が影響を及ぼすことはありませんでした。 平均分散法の登場 投資がギャンブルと大差なかったそのような時代、シカゴ大学の博士課程学生であった若干24才のハリー・マーコウィッツは、当時の投資理論がリスクを全く考慮していないことに疑問を抱きます。そして1952年に自身の理論を論文Portfolio Selectionにて発表しました。その中で提唱した「平均分散法」は現代ポートフォリオ理論のさきがけとなりファイナンス界に歴史を刻みます。そのポイントを要約すると、 投資はリターンだけではなく、リスクも同時に評価しなくては意味がない。(リターンとリスクのバランス) そのためには、リスクを数値で評価しなくてはいけない。(リスクの定量化) その上でリターン、リスク、リスク回避度を総合評価する目的関数を考え、その最適化問題を解くことによってそれぞれの投資対象への配分比率を決めよう。(現代ポートフォリオ理論) それまで、「一つのかごに卵をもるな」などという、よくわからない言い伝えでひとくくりにされていた「分散投資」。それが科学になったのです。たとえ、リターンが低い銘柄であったとしても、組み合わせて活用すれさえすれば全体としてリスクの分散効果が働くため、大きな存在価値があるということが理論的に示されました。 平均分散法によれば、投資対象のリターンやリスク、投資家のリスク回避度がわかっていれば、最適なポートフォリオが計算できる一方、いくつかの問題点もありました。代表的な問題点としては、各資産がもつ期待リターンの前提値を人間が与えてやる必要があることが挙げられます。リターンの前提値の設定を誤ると、「数式やモデルそのものは正しいのに、なぜか結果が思わしくない」ということが頻繁に起こりました。というのも、リターンの推定は最も困難なタスクの一つであり、いわゆる"garbage-in garbage-out" (モデルに誤った数値を入力することで、誤った解が出力されること)の状態が起きやすい、また投資対象が多くなってくると推定が必要な相関係数の数はその2乗で増えていくため、当時の貧弱な計算機では最適化計算の負荷が高いという課題も深刻でした。 CAPM そんな中、ウィリアム・シャープが、1964年に資本資産価格モデル、いわゆるCAPMを発表します。 これは、マーコウィッツの平均分散法の最大の課題であった、いかに合理的にリターンを推定するかという課題を克服するため、実務に耐えうるよう改良されたモデルです。 彼の主張は、 証券$i$の期待リターンは、市場ポートフォリオの期待リターンを$\\muM$, 無リスク利子率を$r_f$、その証券と市場ポートフォリオとの回帰係数(ベータ値)を$\\beta$としたとき、 $$ \\mu{i} - r{f} = \\beta_i (\\mu{M} - r\_{f}) $$ という式で表される というものです。 無リスク利子率というのは、平たくいうと銀行預金の利子ですから、仮にゼロとしてしまえば、 $$ \\mu\_{i} = \\beta_i \\mu_M $$ とまで簡略化できます。 さて、このシンプルな式には3つほど示唆があると思います。 $\\beta_i$は共分散行列があればわかるので、単純に市場ポートフォリオの期待リターン$\\mu_M$さえもとめてしまえば、あらゆるの証券の期待リターン$\\mu_i$がわかるということ リスクの大小を市場ポートフォリオとの共分散(=連動性)と定義すれば 証券のリターンはそのリスクに比例する ということ  最適ポートフォリオは、市場ポートフォリオになるということ 特に、最後の3に関しては極めて重要です。つまるところ、 ある条件の下では、最適ポートフォリオは、存在する全ての証券をそれぞれの時価総額の比率で組み合わせたものになる と言っています。つまり日本株のみで構成する最適ポートフォリオを実現するにはTOPIXを買って終わりということになります。逆に言えば、時価総額の比率を無視するすべての銘柄選択は、最適では無いということになります。 なんとリターンの予測などしなくても、最適なポートフォリオはすでにわかっていたのです。苦労して最適化計算をする必要などそもそもなかったどころか、最適なポートフォリオを構築するという観点においては証券リターンに対して独自の見通しを持つこと自体が誤りになるというのです。 投資家が把握する必要があるのは、変動リスクに対するリスク許容度のみであり、リスク許容度さえ分かってしまえば投資家にとって最適なポートフォリオは複雑な計算をせずともすぐに決定されます。 これがSUSTENでいうところの「分散投資1.0」の考え方であり、一般的なロボットアドバイザー含め、現在「分散投資」とされているものの多くはこの理論に基づいています。 分散投資1.0に対する疑問 さて1964年に発表されたCAPMは、学術界で大注目を浴びる一方、それまでの常識を覆す結論であったため、学者の間で大きな論争を巻き起こします。 CAPMに対するもっとも多かった反論の一つは、「期待リターンをベータ(市場ポートフォリオとの連動性)だけで説明できるわけなどない。」というものです。たしかに、経済成長率の鈍化、インフレーション、地政学的リスク、流動性枯渇、自然災害など、上げればキリがない様々な種類のリスクをひとくくりにして、ベータ値一つで説明しようとするものですから、その反応も不自然ではありません。(実際にその反論を出発点として、Fama Frenchの3ファクターモデルやStephen Rossの裁定価格理論(APT)などへと後に拡張されることになります。) また、CAPMの問題は導出そのもの(つまり式の展開)自体にはそれほど問題は無いのですが、その理論が成立するための前提条件が実際のマーケットと掛けはなれており現実的ではないという指摘もよくなされます。この前提条件は、物理学でいうところの「真空状態を仮定すると、・・」や「摩擦がないものとしたとき、・・」などという条件と同様に、複雑な世界を美しくモデル化する際には大いに役立ちますが、様々な制約条件が重なり合う現実世界ではそのまま適用することができません。そして、前提が異なると、結論も異なります。 実際にどのような前提条件があるかというと、 証券が無限小単位で取引可能であること 市場は効率的であり、取引にかかるコストや税金も発生しない すべての投資家が市場に対して同一の見通しをもっていて、平均分散法により最適化している すべての投資家が無リスク利子率で無限に借り入れを行える すべての証券は空売りが可能 などです。 しかし御存知の通り、一部の例外を除いて税金からは逃れられませんし、市場参加者は独自のデータや理論を駆使し、市場コンセンサスを疑い日々知恵を絞っています。すっかりデジタル社会になった現代でも、情報が完全に市場に織り込まれるには一定の時間を要しますし、ほとんどの機関投資家は借り入れを行って株式を購入することはそもそも認められてすらいません。理論が求める仮定は、残念ながら現実世界ではあてはまらないのです。 一部の論者には、「仮にすべての市場参加者がこの前提に当てはまらなくとも、一部の市場参加者が市場の非効率性を解消する」という主張が見られますが、私たちの知る限り市場の非効率性をなくせるほど無限に借り入れを行い、市場に流動性を提供でき、かつ取引コストを無視できるような主体は存在しません。 ゼロ・ベータ戦略 さて、理論の世界と現実世界の”ズレ”を実感するには、どうすればよいでしょうか。最も直感的な方法の一つは、「ベータ値が0で期待リターンが正であるような資産や投資戦略を構築してみること」です。分散投資1.0の世界では、ベータ値がゼロの戦略には期待リターンが存在しないことになっていますので、このような方法で長期的にリターンが得られる戦略が見つかると、分散投資1.0の世界は現実世界には当てはまらないことが示されます。 例えば、マクロ経済や市場のデータを参考に、ある資産を買い、同時にまた別の資産を売るという戦略を考えてみます。(これはロング・ショート戦略と呼ばれます) 通常、ある資産を買う(=ロング)とその資産固有の収益源が得られるという利点があるものの、市場全体との連動性が生じます。市場との連動性が生まれるということはすなわち、たとえその資産固有の収益源がプラスであっても、景気後退局面で市場全体が大幅に下落してしまうと、結局マイナスがでてしまうということも少なくありません。そこで、その余計なリスクを、別の資産を売る(=ショート)ことで市場に対する連動性を低減して(ヘッジして)しまおうという考え方です。 より具体例をもって示すと、例えば、2020年末時点でドイツの10年国債が魅力的であったため、投資を決定したとしましょう。2021年に入り、ドイツの10年債そのものの魅力に変化はありませんでしたが、残念ながらグローバルの金利上昇のあおりを受けて2月末までに債券価格は2.5%以上下落しました。昨年末から100万円相当のドイツ10年国債を買い持ちしていると2万5千円失う計算になります。 can_vs_bunds そこで、同時に魅力度の低い投資対象であったカナダ10年国債の売建をしていたらどうなっていたでしょうか。カナダの10年国債価格は同時期に5%下がっていますので、2月末には95万相当まで価値が低下しており、そこで買い戻しを行うと差し引き5万円のプラスになります。 両者をまとめると、合計でプラス2.5万円(=ドイツの買いから2.5万円の損失、カナダの売りから5万円の利益)となり、世界的な債券価格の下落傾向にも関わらず、収益を確保できたことになります。ここで、債券市場全体が上昇したとしても、ドイツがカナダを上回って上昇してさえすれば依然として収益はプラスになることに注意してください。つまり、「両者の価格差」が問題なのであって市場が上がるか下がるかの方向性はもとより関係ありません。市場の連動性はこのロングショート戦略に大きな影響を与えず、「ドイツとカナダの相対的魅力度」がこの戦略の可否に直接的な影響を与えるのです。 さて、いったん何を根拠にドイツとカナダの相対的魅力度を判断したかはさておき、この「市場との連動性がない戦略でリターンが得られた」ことは、分散投資1.0の考え方に一石を投じます。 CAPMの主張は「無リスク金利を上回るリターンは、ベータ(市場との連動性)から生まれるのであり、それ以外に存在しない。」というものなので、もしもCAPMが正しいならば、プラスの期待リターンを得る唯一の方法は市場連動性を受け入れる(=ベータをとる)こと以外にありえません。すなわちベータがゼロであれば、リターンの期待値はゼロであるため、短期的に上振れ・下振れはすれど、長期的に累積収益率はゼロに収斂していくはずなので上記と矛盾しています。 つまり考えうるのは以下の2パターンのどちらかです。 CAPMは正しい。ゼロ・ベータでありながら期待リターンがプラスになるものは存在するはずがないで、リターンがプラスになったのは単なる偶然である。 CAPMでは説明が及ばない部分がある。市場ベータ以外からの収益源が少なからず存在する。 さまざまなバリエーションがあるものの、以上が60年代以降続けられてきたCAPM論争の黄金パターンです。生み出されたリターンが偶然の産物であるという帰無仮説を立てて検定を行い棄却していくという作業を地道に行うことになります。 SUSTENの考え方:分散投資2.0 SUSTENも例にもれず、上記2の立場をとっています。たしかに市場は伝統的な理論が主張する通り、相当効率的であると言え、特に市場の短期的な上下動の予測は極めて難しいと言わざるを得ません。しかし、一方で完全に効率的ではないのも確かです。そこで、SUSTENでは伝統的ポートフォリオ理論を補正して、分散投資のフレームワークを独自に構築しています。 たとえば、上記のドイツ国債/カナダ国債の例は、説明目的で単純化してはいるものの、実際に当社の自動運用アルゴリズムがトレードしたポジションの一部です。全体ではグローバル各国の株式市場、債券市場、通貨市場を監視し、国別の株式・債券・通貨の投資妙味、および資産クラス間の魅力度(株式vs債券vs通貨)を合わせて投資対象の選定と投資額の決定をおこない世界中の証券取引所において日々取引を執行しています。 また以下に、グローバル複合戦略ポートフォリオ(G)において、アルゴリズムが投資妙味を判断する際に評価軸としているものをご紹介します。グローバル資産分散ポートフォリオ(R)/グローバル債券ポートフォリオ(B)が世界経済全体の成長を獲得しているのと対照的に、古典的理論では存在しないことになっている収益源(=リスク・プレミアム)の長期的な獲得を目指しています。 上記のいずれも、リスク・プレミアムという名が示す通り短期的な下落リスクを抱えることにより長期的に対価を得るものです。その意味では伝統的な株式投資と全く同じ原理です。株式市場が景気サイクルや経済の好況不況に左右されながら上昇していくのと同様に、全てのリスク・プレミアムは環境によって機能しやすい時期としづらい時期があります。一つの収益源泉が常にプラスのリターンを出し続けるものではないからこそ、特色の異なる複数の収益源にあらかじめ分散しておくことが肝要であると言えます。

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2 | 運用戦略について

はじめに 前記事「分散投資2.0」では、単純な国際分散投資の強みと弱みについて紹介致しました。特に、一定の条件を満たす場合、時価総額加重配分のポートフォリオの効率が最も良いことを示すと同時に、その前提条件が非現実的であることから、限界もあることを指摘しました。 古典的理論は、さまざまな前提条件が市場で成立すること、言い換えれば、「投資家が常に合理的に行動すること」を前提として組み立てられていますが、行動経済学の世界では人間が常に合理的に行動することはとても困難であることが知られています。そして、その原因は人間がさまざまな認知バイアスの影響を受けやすいからであるとされています。 認知バイアスとは 認知バイアスとは、人間なら誰しもがもつ「思考の偏り」のことで、論理的な意思決定を妨げる原因となるものの総称です。 これまで様々な種類の認知バイアスが提唱されていますが、ここでは資産運用に関連の深いものをいくつかご紹介します。 ディスポジション効果 1985年、行動経済学者のHersh ShefrinとMeir Statman\\cite{disposition}は、株式市場の投資家は含み益のある投資を早く手仕舞いすぎ、また含み損のある場合は損切りをなかなかしないのではないかと仮説を立てます。利益を確定させる場合と、損失を確定させる場合の心理状態を対比し、人間は利益を確定させた場合の心地よい成功体験をはやく求めすぎ、逆に損失を確定する場合に生じる苦痛をなるべく遅らせようとする心理がはたらくと説明しました。 のちに、UC Berkeleyの教授であるTerrance Odean\\cite{Odean}は、1万もの個人投資家の証券口座においての投資行動を分析し、含み益のあるトレードは含み損のあるトレードに対して平均50%も確定させられやすいことを実証し、個人が投資に失敗する主な原因であると主張しました。 さて、平均的な市場参加者がディスポジション効果の影響を強く受けている場合、何が起こるでしょうか。 ある日、とある会社Aにとって良いイベントがおこり、したがって会社Aの価値が上昇したとしましょう。したがって、会社Aの株式を保有している投資家は含み益を得られることになります。しかし、ディスポジション効果により早く手仕舞う市場参加者が多いため、株式Aは過小評価される状態がしばらく持続します。その結果、株価が本源的価値まで上昇するのに一定の時間がかかります。 一方、また別の会社Bには悪いイベントがおこり、したがってその会社Bの価値が下落した場合は、保有者には含み損が発生します。しかしながら、ディスポジション効果により損切りはなかなか進みません。そのため、株式は過大評価の状態がしばらく続き、その結果株価が本源的な価値まで下落するのに一定の時間がかかります。 双方において共通して言えることは、情報が価格に反映され本源的な価値に収斂するまでに一定の時間を要することです。これが、「なぜ市場ではトレンドが形成されるのか?」という問いに対する一つの説明です。 ディスポジション効果とは、含み益の確定は急ぎすぎ、損切りはなかなか行われない現象のこと。 価格形成においてトレンドを形成する一因となる。 宝くじ効果 アメリカで最も有名な宝くじにPowerballというものがあります。全米のコンビニやガソリンスタンドなどいたるところで販売されており、その賞金の破格さは日本のものとは比較になりません。1等の賞金は最低でも4000万ドル(約40億円)、当選者が出ずキャリーオーバーが続くとその10倍程度まで膨らむことも珍しくないため、全米で毎年20億枚程度売り上げる最も有名な人気宝くじです。 Powerballのチケットを1枚2ドルで購入すると、ビンゴゲームのようなマシーンからボールを引く抽選が行われ、購入者が番号を的中させることで難易度に応じた賞金がもらえます。賞金も破格なら難易度も高く、1等賞金を得るためには、69個中5つの白玉と26個中1つの赤玉のすべてを的中させる必要があります。そしてその確率は約2億9千万分の1(1/292,201,338)です。 つまり期待値的には13セントほど(購入価格の6%程度)にすぎず、Powerballを購入することの期待リターンはマイナス94%です。(キャリーオーバー無しの場合) このような期待リターンがマイナスの宝くじを購入する人があとを絶たない背景として、人間の確率に対する知覚の偏りが挙げられます。人間は限りなく小さい確率を感覚的に正しく捉えることがとても苦手であることが知られており、とくに実際の確率よりも大きく見積もる傾向にあります。これは宝くじ効果と呼ばれており、有名な認知バイアスの一つです。 「宝くじは馬鹿に課せられた税金だ」というアダム・スミスの言葉は、宝くじの購入を戒めるものとして広く知られていますが、医療保険や損害保険などの「保険商品」も宝くじと構造的には同じです。「ごく小さい確率で大金を得るために、少額のお金を払う」という意味では両者に経済的な違いはないからです。競馬や競輪なども同様です。高オッズの馬券は、当選したときの配当金は大きいながらも、確率を加味すると低オッズの馬券よりも分が悪いことが知られています。 実は、株式や債券などの金融市場でもこの効果による影響が観測されています。図3は、米国の債券と株式の実現リターンを年率換算して比較しています。ご覧の通り、実現リスクが高くなるほど、リターンが高かったことがわかります。すなわち、ハイリスク・ハイリターンの関係です。 一方、リスク調整後のリターン(リターン÷リスク)の数値は図4のようになります。上記とは全く逆の傾向になっていることがわかります。すなわち、リスクをリターンに変換する効率=「リスク効率」の観点からは、低リスクのものが優れているという傾向があります。言い換えると、「高いリターンを得られる可能性がある投資対象」への人気は過剰であり割高で取引されている可能性があるので注意が必要であるということです。 宝くじ効果は、大きなリターンを得られるものの価値を過大評価し、結果として割高でも購入してしまう人間の傾向のこと。 大きなリターンを得られる可能性が低いものは過小評価されるため割安に放置される傾向がみられる。 資産運用と認知バイアス このような、認知バイアス(=思考のワナ)の存在を頭の片隅においておくと、実生活で誤った判断を下すことが減るかも知れません。また資産形成や資産運用に取り組まれている方は、ご自身の投資行動が本当に合理的なものかどうか?認知バイアスに影響されていないか?を自問自答することで回避できる失敗があるかも知れません。 さらに進んで、認知バイアスを逆用して収益源として取り入れることも一案です。 やや古いですが、Ilmanen\\cite{ilmanen}は、世界中の株式や、債券、コモディティ、通貨などの資産クラスについてそれらの価格形成の要因やメカニズムを多面的に分析した良書です。それぞれの投資対象の特性を理解し投資に役立てる上で大いに参考になることと思います。 また、SUSTENが提供するグローバル複合戦略ポートフォリオ(G)では、上記でご紹介した収益源以外にも合計6分類の景気独立型戦略を実装しパッケージ化していますので、忙しくて勉強する時間が無い、運用を自動化されたいという皆様には、これらを一部活用することでお手軽に質の高い分散投資を実践して頂くことも可能です。 投資の3原色とは 当社が提唱している「投資の3原色」においては、緑が景気独立型戦略の要素に相当します。 赤である株式分散ポートフォリオと青である債券分散ポートフォリオの組み合わせを長期保有することで国際分散投資を実践。その上で緑の景気独立型戦略を取り込むことで、様々なタイプのポートフォリオを作ることが可能です。 国際分散投資(赤および青)・・・古典的理論に基づいた伝統的な投資手法。各資産への配分は一定の比率を長期に渡って維持するように運用され、買い持ちだけを行うバイ・アンド・ホールド戦略 景気独立型戦略(緑)・・・行動経済学の理論等に基づいた非伝統的な投資手法。各資産の配分は、市場動向や経済情勢に合わせて機動的に調整され、買い持ちだけでなく売り持ちも組み合わせるロング・ショート戦略 一般的に国際分散投資と景気独立型戦略は互いに補完し合う関係にあり、それぞれが異なる動きをする特徴があります。そのため、どちらか片方ではなく両方を保有し分散効果を最大限高めることがより有効である場合がほとんどですが、SUSTENではいくつかの質問に答えていただくことで、年齢やニーズに応じたポートフォリオを自動判定しご提案しています。 結論 さまざまな認知バイアスは、効率的な資産運用を妨げるだけでなく、実生活でも誤った判断を下してしまう可能性があるため、その存在を理解しておくことが重要です。また、資産運用においてはそれらの罠に陥らないように気を付けるだけではなく、逆手に取って活用する方法も有効です。これらの認知バイアスは景気の良し悪しではなく人間の脳の構造に由来するものですので、一般的な国際分散投資と組み合わせることで、さらなる分散効果を期待できると考えられます。 参考文献

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3 | プロフィットシェアに関して

SUSTENは、プロフィットシェアという「完全成果報酬型」費用体系を採用しています。これは投資家の利益と運用会社の利益が同じ方向を向くように設計された新しい費用体系であり、一般的な資産運用サービスの費用体系とは異なります。この資料では、当社のプロフィットシェアに関する検証を行い、一般的な資産運用サービスとの比較を行っています。 一般的な資産運用サービスでは多くの場合、「固定報酬型」と呼ばれる費用体系が採用されており、預かり資産の残高に連動して例えば「年率1%」のような費用(運用会社から見た場合には報酬)が発生する仕組みになっています。固定報酬型は、運用資金の残高が増加するとともに運用会社の受け取る報酬額も増加するため、投資家との利益相反が起こりにくく、シンプルで分かりやすいことに特徴があります。当社も固定報酬型の費用体系は非常に合理的だと捉えるものの、一方でいくつかの課題もあると考えています。 固定報酬型の課題の1つ目は、投資家が損失を被っている間にも運用報酬が発生してしまう点です。リスクを取って投資を行う以上、資産価値は必ず上下に変動し、少なくない期間で損失が発生する可能性があります。いずれ長期的には利益が出ることが期待できたとしても、たとえば過去、国内株においてはバブルが崩壊して以降20年近く最高値を更新できず、外国株においてもリーマンショック以降は6年以上最高値まで回復することがありませんでした。固定報酬型の費用体系では、こうした最高値を更新できずにいる間もずっと費用が発生し続けてしまうため、投資家にはフラストレーションが蓄積し、長期投資から離反してしまう要因のひとつになってしまいます。 固定報酬型の課題の2つ目は、将来のリターンは不確実である一方で、費用だけは確実である点です。一般に、投資対象の期待リターンを推測することは大変困難を伴います。過去好調なリターンが出ていたからといって、それが将来も続いていくという保証はありません。たとえば、米国株式は市場全体として過去30年に渡って8%以上(米ドルベース)のリターンを上げてきましたが、このリターンの水準が今後も続くとは限りません。今後も株式市場全体がプラスの期待リターンを持つことは十分に想定されますが、各国の経済成長率や金利水準が歴史的最低水準を記録する中、株式の期待リターンが過去平均を維持できると想定するのはやや楽観的に思えます。期待リターンの推定に過去のリターンを直接的には用いないブラック・リターマン・モデルのような均衡期待リターンのアプローチにおいても、資産間の期待リターンの「比」は計算できますが、その絶対水準を推定することは恣意性を伴うという課題があります。 また仮に期待リターンを推測できたとして、将来の結果を正確に言い当てることは不可能です。これは例えばサイコロを想像してください。1から6の目が描かれたサイコロの出る目の期待値は3.5だということは分かりますが、次に振って出る目を正確に言い当てることは誰にもできません。(あくまで出る目を確率分布としてしか表現できません。) 各資産の期待リターンの推定には何かしらの恣意性が伴い、将来のリターンは不確実である一方で、費用の水準だけが確実に固定されているのはやや非合理ではないでしょうか。 固定報酬型の課題の3つ目は、金融商品を扱う販売会社や運用会社のインセンティブが必ずしも投資家と合致していない点です。預かり資産残高が増えると報酬が増える方式は一見、利益相反のない形に見えますが、顧客にとって『残高が増える≒運用成績が上がる』の関係が成り立っても、販売会社や運用会社にとっては『残高が増える≒運用成績が上がる + 顧客数が増える』の関係が成り立ちます。販売会社や運用会社にとっては、前者の運用成績を上げることよりも後者の顧客数を増やすことの方がはるかに容易で確実です。このため金融業者によっては、運用成績向上に主眼を置く投資商品よりも、顧客数を増やしやすく販売しやすい表面的な魅力を追求した商品(たとえば「テーマ投資」や「毎月分配」、「通貨選択型」のような投資商品)ばかりが開発されることになります。 このインセンティブの微妙な差異にはもうひとつの隠れた弊害があり、それは預かり資産が大きくなるにつれ、運用会社にかかる運用成績に対するプレッシャーが小さくなっていく点です。固定報酬型の費用体系では、運用会社はその成績に関わらず安定した収益を得られるため、ある程度預かり資産残高が大きくなった運用会社には、運用成績を向上させようというインセンティブが希薄になってしまいます。 SUSTENでは、これらの3つの課題を解決すべく、完全成果報酬型の費用体系を導入することにしました。 完全成果報酬型の費用体系を採用すると、次のような利点があります。 ① 投資家にとって運用成績が過去最高を更新できずにいる間は、運用会社に支払う費用が発生しない。 ② リターンに応じて負担する費用が変動するため、仮に将来、リターン水準が低下しても相応に費用も低下する。 ③ 預かり資産残高の大きさを問わず、運用会社には常に運用成績に対するプレッシャーがかかり続ける。 これらの利点は、上記に挙げた固定報酬型の課題の多くを解決することができるため、投資家にとって合理的かつ理想的な費用体系といえます。 運用会社にとっては、固定報酬型のような安定収益源がなくなるというダウンサイドはありますが、運用成績を向上させればさせるほど、報酬が増加するというアップサイドも期待できるため、運用能力に自信がある会社にとっては投資家と運用会社の双方にとってメリットがあります。 ただし、気を付けないといけない側面がないわけではありません。 それは、成果報酬の持つ「利益の非対称性」です。 「利益の非対称性」とは、成果報酬型の費用体系では片や投資家に利益が生じた際に運用会社は報酬を受け取ることができるのに対し、片や投資家に損失が生じている際に運用会社は(報酬は得られないものの)実額的な損失を被ることはないということを指します。これは運用会社にとって、コールオプション(※1)を保有しているのと同様の効果を与えます。 ※1 代表的な金融デリバティブで、資産をあらかじめ決められた価格で買える権利のこと。将来、資産価格があらかじめ決められた価格よりも上回っていれば権利を行使することで差額を利益とでき、下回っていれば権利を行使しないことで損失を免れる。 この「利益の非対称性」を利用すれば、期待リターンがない投資(結果は不確実だが、期待値として利益のない投資)であっても、運用会社に収益をもたらすことが可能になります。(※2) この性質があるため、一概に完全成果報酬型と言っても、手放しで喜べるものではありません。運用会社の持つ 「利益の非対称性」の価値(以下、オプション・プレミアムといいます)を評価して初めて固定報酬型と比較してリーズナブルな報酬体系かどうかがわかるのです。オプション・プレミアムの大きすぎるサービスでは、実質的に投資家が負うことになるコストが上昇し、投資家にとって不利益となります。 ※2 期待リターンがない投資でも運用会社に収益をもたらすという点は、固定報酬型にも同様なことが言えるため、成果報酬型だけに限らない資産運用サービスに通じる一般的な課題。 では運用会社の持つオプション・プレミアムは、どのように評価したら良いでしょう。 実は、オプション・プレミアムは、投資行動の持つ「不確実性の大きさ」に強く関係することが実務的にも数学的にも知られています。不確実性の大きさは専門的にはボラティリティという、投資のリターンがどの程度ばらつきを持っているかの尺度をもって測ることができます。 成果報酬は、プラスになったときにその成果に連動した報酬が発生し、マイナスになったときにペナルティはないため、ボラティリティ(≒プラス・マイナスのばらつきの幅)が大きくなればなるほどプラス時に発生する報酬額も大きくなる、すなわちその期待値であるオプション・プレミアムも大きくなるのです。 成果報酬の料率を評価する上では、投資戦略の持つボラティリティを把握することが第一歩となります。幸いなことに、投資戦略の持つ期待リターンを推測することは大変困難であることとは対照的に、その不確実性の大きさに関してはある程度推測可能であることが知られています。 SUSTENの場合、投資家の収入や資産の状況、投資に対する考え方等に照らして、投資家ごとに適切と想定されるポートフォリオをご提案する仕組みになっていますが、その提案ポートフォリオは全9タイプ36種類存在し、それぞれのポートフォリオの持つボラティリティは以下の通りです。 なおご参考までに、代表的な投資対象に対して当社が想定しているボラティリティは以下の通りです。 これらの前提の下、当社のプロフィットシェアの持つオプション・プレミアムを実際に評価してみましょう。 一般に、1期間のオプションに関してはブラックショールズ方程式(※3) と呼ばれる解析的な評価式が利用できますが、当社のような多期間のオプションの持つ価値に関しては、モンテカルロ・シミュレーション(※4)と呼ばれるシミュレーション評価が有効です。 ここでいう1期間とは、成果の判定が期間中1回しかなく、成果の基準もその都度リセットされるものを指し、多期間とは一定の期日ごとに成果を判定するものの、その成果の基準が翌期に引き継がれるものを指します。当社のプロフィットシェアでは、投資家の投資評価額が過去最高評価額を超過しているかどうかを毎月判定しますが、基準となる過去最高評価額については翌期にも引き継がれるため(つまり単月の成績で成果を測るわけではなく、サービス利用開始来の成果を常に基準とします)、多期間の構造を持ちます。 ※3 金融デリバティブの価値を評価する方程式※4 無数の乱数を発生させ統計的な期待値を評価するシミュレーション まずは、当社の代表的なポートフォリオに関して、そのオプション・プレミアムが従来の固定報酬型と比較してどの程度であるかを評価します。 評価の方法は、モンテカルロ・シミュレーションを行い、運用会社の持つオプション・プレミアムの大きさを従来型の固定報酬(年率表記)に換算して行います。シミュレーションでは、リスク中立の前提(金融商品の評価に用いられる原則で、裁定機会が存在しないという前提)の下、無数の投資成果をランダムに生成し、それぞれの投資成果に対して当社の費用体系を適用した場合と、費用が一切発生しない場合とを比較し、その年率リターンの差分を抽出します。 評価する代表的なポートフォリオには、まずSUSTENが提供するポートフォリオの中で最もボラティリティが高い(=オプション・プレミアムが大きくなる)と想定される「信頼の世界経済タイプ」のポートフォリオを選択した上で、成果報酬の料率に関しても最も高い料率を使用しました。結果を表3に示します。 一般的な固定報酬型の費用体系を持つ投資信託の平均費用は年率1.4%程度であり、昨